PMS(月経前症候群)の薬物療法
PMSの薬物療法は、症状の種類や重症度に応じてホルモンバランスの調整や神経伝達物質の補正を目的に行われます。
特に身体症状(腹痛・頭痛・むくみ)と精神症状(イライラ・不安・抑うつ)の両面にアプローチすることが重要です。
以下、薬物療法の種類とその詳細について解説します。
1. ホルモン療法
PMSの根本的な原因は、エストロゲンとプロゲステロンの急激な変動です。
ホルモン療法では、このホルモンバランスを安定させることで症状を和らげます。
● 低用量ピル(経口避妊薬)
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排卵を抑えることでホルモンの変動を少なくし、PMSの症状を軽減します。
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特に、重度のPMSやPMDD(月経前不快気分障害)に有効です。
主な低用量ピルの種類:
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一相性ピル: 全期間で同じホルモン量を含むタイプ
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三相性ピル: ホルモン量を段階的に変化させるタイプ
副作用:
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吐き気、頭痛、乳房の張り
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血栓症のリスク(喫煙者や高血圧の方は注意)
● 黄体ホルモン剤
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プロゲステロンを補充または抑制することで、ホルモンバランスを調整します。
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黄体期の不調が強い場合に適応されます。
主な薬剤:
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ジドロゲステロン
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メドロキシプロゲステロン
副作用:
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むくみや体重増加
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不正出血
2. 精神症状への薬物療法
PMSに伴うイライラや不安感、抑うつ症状には、脳内の神経伝達物質の働きを調整する薬が用いられます。
● 抗うつ薬(SSRI)
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セロトニンの再取り込みを阻害し、脳内のセロトニン量を増やします。
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感情の不安定さや抑うつに効果的です。
主な薬剤:
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フルオキセチン
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セルトラリン
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パロキセチン
副作用:
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吐き気や頭痛
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性機能障害
● 抗不安薬(ベンゾジアゼピン系)
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神経の興奮を抑え、不安感や緊張を和らげます。
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短期的に使用されることが多いです。
主な薬剤:
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ジアゼパム
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アルプラゾラム
副作用:
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眠気やふらつき
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長期使用による依存性
● 気分安定薬
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感情の起伏が激しい場合や、衝動的な行動が見られる場合に使用されます。
主な薬剤:
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リチウム
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バルプロ酸
副作用:
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手の震えや体重増加
3. 身体症状への薬物療法
● 鎮痛薬(NSAIDs)
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腹痛や頭痛などの痛みを和らげるために用います。
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生理痛が強い場合にも有効です。
主な薬剤:
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イブプロフェン
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ロキソプロフェン
副作用:
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胃腸障害や胃痛
● 利尿薬
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むくみや体重増加が気になる場合に使用します。
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余分な水分や塩分を排出します。
主な薬剤:
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スピロノラクトン
副作用:
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電解質バランスの崩れ
● 漢方薬
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体質や症状に合わせて処方されるため、副作用が少なく、長期的に使用できます。
主な薬剤:
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加味逍遙散(かみしょうようさん): 精神的な症状の改善に有効
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当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん): 冷えやむくみに効果的
4. PMSの薬物療法の選び方
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精神的症状が強い場合: → SSRIや抗不安薬
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身体的症状が強い場合: → 鎮痛薬や利尿薬
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ホルモンの影響が大きい場合: → 低用量ピルや黄体ホルモン剤
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自然由来の治療を希望する場合: → 漢方薬
まとめ
PMSの薬物療法は、症状の種類や重症度に合わせて以下のように選択します。
症状の種類 | 推奨される薬剤 | 備考 |
---|---|---|
ホルモンバランスの乱れ | 低用量ピル、黄体ホルモン剤 | 重度の場合に推奨 |
精神的な不調 | SSRI、抗不安薬、気分安定薬 | PMDDにも適応 |
身体的な痛み | NSAIDs | 生理痛や頭痛にも効果的 |
むくみ・体重増加 | 利尿薬 | 塩分や水分の排出を促進 |
自然療法を希望 | 漢方薬 | 体質改善を目的に長期使用可能 |
症状がつらい場合は、婦人科や心療内科を受診し、医師と相談しながら適切な治療法を選ぶことをおすすめします。